新緑の美しい季節になりました。外気も暖かく感じられ、日照時間も長くなり、何となく心も軽くなる季節です。
巷では、新緑の時期を「木の芽時」と呼びならしています。そしてこの時期には、人の心が軽くなりすぎて、精神に変調をきたしやすいと信じられています。
 たしかに我々をとりまく環境に注目すると、今の時期は周囲の環境が大きく変化する季節であることがわかります。学生であれば4月に学校へ入学したり、進級します。会社では、この時期に社会人になったり、配置転換を経験します。初めのうちは、オリエンテーションもありますが、4月下旬になると新しい環境で自分に何が求められているかがだんだんとわかってきます。逆に、新しい環境で友達が出来なかったり、仕事を覚えられないなど、自分の居場所が見つけにくい場合、この時期になると本人も焦りが出てきます。

 俗にいう「5月病」とは、5月の連休明けになり、新しい環境に馴染めなかった人たちが学校や会社を休み始めることを指しています。こんな名前の付け方にも日本人の季節感がよくあらわれていますね。
「5月病」のように、他人が見てもはっきりわかるようなストレスがあり、その結果、本人が精神的にひどくつらい思いをしたり、学校を休んだり、会社を欠勤するなどの普段はとらない行動が起こることを専門的には「適応障害」と呼びます。この場合、普段は心身ともに健康だった人が具合が悪くなるのですから、原則としてストレスの原因が解決すると元に戻ります。

 ストレスを解決するためには、大きく分けて2つの方法があります。ひとつは、配置転換などを行い、本人をストレスから離すことです。もうひとつは、新しい環境で本人に求められている問題を整理し、本人が解決できるようにトレーニングすることです。たとえば、コンピュータの技術を教えたり、クレーム処理の方法を実例を例にとり教えるなどです。二つの方法のいずれをとるかは、本人の意欲・能力、仕事の難易度、本人をとりまく人たちの協力など、さまざまな要因を総合して評価します。もちろん、環境を変えるよりも、本人がトレーニングをしてある技術を身につけるほうが時間がかかります。

 春になって学校や仕事を休む人は、適応障害ばかりではありません。適応障害を「本物の5月病」と考えると、「一見五月病」とでもいうべき病態もあります。
 例えば、能力はあるけれども飽きっぽいタイプ、人の好き嫌いが極端で、人間関係が不安定になりやすいタイプなどは5月に限らず職場で不適応を起こします。
 また、うつ病は5月に限らず慣れ親しんだ環境が変化した後で起こりやすい病気です。春は環境の変化が起こりやすいため、この時期に発生するうつ病は、一見5月病と区別がつきにくいのです。
 他人からみると同じように元気なく見える5月病(適応障害)とうつ病ですが、治療法は大きく異なります。5月病は、先に触れたように、環境を変えるか本人の能力を伸ばすかが大切で、(脳に働く)薬はあくまでも一時的に症状を楽にするために補助的に使います。一方、うつ病は、脳内の物質のバランスが乱れたために発生する「体(脳)の病気」ですから、脳内の物質を元に戻すための薬物療法が必要です。

 では、同じ元気がない状態でもうつ病の元気のなさは5月病(適応障害)とどう違うのでしょうか。
 第1に、うつ病では、一度寝ても夜中に何度も目が覚めたり、普段より早く目が覚めたりしやすいのです。つまり、睡眠が途切れやすいのです。一方、適応障害の場合は、仕事のことを考え寝つけないことが多いといわれています。
 第2に、適応障害では学校や仕事を離れると比較的元気です。自分の好きなことをすれば気分は一次的に改善します。しかし、うつ病は以前は好きだったことをやっても疲れるだけで気分は改善しません。
 第3に、うつ病では午前中具合が悪く、夕方から夜にかけて具合がよくなるという体のリズムがあります。一方、適応障害は、特別なリズムはありません。
 最後に、うつ病の場合、気分は長い期間沈み続けます。2週間続けて気分が沈み続けていればうつ病の可能性があります。
 「5月病」は、日常語になるほどポピュラーな不調です。しかし、「一見5月病」の中には、治療でよくなるが治療しないとこじれる病態が含まれています。
 あなたの周りに5月病の人がいたら、一度は専門医に相談しましょう。