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 皆さんの中に、朝電車の中でおなかが痛くなったり、便意を催して困る人はいませんか?
 電車の中で急にトイレに行きたくなり、次の駅でトイレに駆け込むと、そこには順番を待つ人の列があります。冷や汗をかきながらトイレを使う順番を待つことになります。
 このように朝トイレを使う人のほとんどは過敏性腸症候群(IBS)の人と、二日酔いの人のようです。
 IBSとは、食事や精神的なストレスに対して腸が過剰に反応する病気です。@腸の動きが早くなり、便意が強く便がゆるくなるタイプ、A便秘と下痢を繰り返すタイプ、B腸にガスがたまるタイプなどがあります。
 IBSは大変頻度の高い疾患です。全人口の10〜20%の人がこの傾向を持つといわれています。しかし、このうち病院にかかるのは約10%と言われています。多くの人は、下痢をしても「神経性の下痢」と思ってそれほど心配せずに日常生活を送れます。また、一部の人は病院を受診して、医者に「悪い病気(癌など)でない」と言われれば安心して日常生活に戻れます。
 しかし、一部の人は症状のために日常生活が制限されることがあります。日常生活が制限される場合は、合併症を持つことが多いようです。
 IBSの合併症で重要なのは、閉所恐怖、広場恐怖と言う現象です。
 閉所恐怖とは、電車の中などすぐには抜けられない状況で便意を催すことから、電車(すぐに抜けられない場所)に乗るのが不安で避けるようになることです。閉所恐怖を持つ患者さんの場合は、電車に乗ると不安になるため下痢をしやすいという悪循環に陥ります。このため駅と駅が離れている急行電車に乗れなくなったり、いつでも止めることの出来る自家用車で通勤するようになります。
 広場恐怖とは、家から外出してどこにトイレがあるかわからない場所に行くのが不安で、安全な場所(家)の外に出るのを避ける状態です。このため、活動範囲が狭くなり、会社に行くのも困難になります。
 このように合併症を持ったIBSでは、ただ下痢をとめる薬を出しただけでは十分な効果は得られません。薬に加えて、リラックスする練習(リラクセーション法)、認知の変容、外出練習などが必要になります。
 認知の変容とは、患者さんは「下痢さえ治れば元に戻れるのに」と考えます。ところが実際は、合併症を持つIBSは、下痢が治ったから社会生活が元に戻ると言う順序では治りません。薬やリラクセーションで不安をコントロールしながら、電車や外出の練習をします。練習の結果電車に乗れるようになり、自信がつくと不安も減少し、下痢をしにくくなるという順序で改善します。このようなことを練習しながら学ぶのが認知の変容です。
 また、患者さんの中には「薬で治らないから心理療法を希望」という人もいます。この場合の心理療法とは、「心理士と話をすることによって気分が楽になれば下痢も治る」、または「過去にさかのぼり心理的な根本?の問題が分かれば下痢が治る」というイメージを持つことが多いようです。現実には、面接室で気分が良くなっても朝の下痢にはあまり影響しませんし、過去のことで新たに気がついたことがあっても下痢は治りません。
 過敏性腸症候群でお悩みの方は、心療内科専門医にご相談ください。