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平成20年になりました。おかげさまで昨年も多くの方々にアーツクリニックを利用していただきました。今年も出来るだけ多くの方の役に立てますように体制を作ってゆきたいと思います。
  さてメンタルヘルスの領域には、あまりにも多くの人が経験しているため患者さんが「自分の状態は本当に病気なんでしょうか」と疑問をもつような病態があります。
  特に不安という現象は誰でも経験するものですから、どこまでが普通のことでどこからが病気なのかはっきりしません。
  不安が患者さんの悩みの中心である病気を不安障害と呼びます。不安障害の中にもいろいろな病気がありますが、あまりに多くの人が悩むために、医療機関でなくても日常的に話を聞く病態もあります。
  代表的なのが恐怖症という病気です。皆さん、「高所恐怖症」という言葉をよく耳にすると思います。高い場所に行くと不安になるので、なるべく高いところに行かないようになる病気です。また皆さんの周りには、ヘビやゴキブリをみるとびっくりして大声を出す人がたくさんいるかと思います。
  これらの現象も実は立派な病気と考えられています。ある特定の状況(高所や動物など)になると不安になり、そのために特定の状況を避けてしまうことを恐怖症と呼びます。日常では上記のほかにも不潔恐怖・尖端恐怖(刃物などとがったものをみると不安になります)の人はたくさんいるのではないでしょうか。
  心療内科の外来では、広場恐怖、閉所恐怖という状態の患者さんが多く受診されます。広場恐怖というのは、たとえば動悸やめまいが起こるために馴染みのない場所(はじめて行く場所など)やひどい時は外出そのもので不安になり、行動範囲が狭まる状態です。ひどくなれば病院に来るのも大変になります。
  閉所恐怖は、広い意味で広場恐怖に含められることもありますが、電車の中や会議室・教室などすぐに抜けられない場所に入ると不安になり、そのような場所を避けてしまうのです。通勤中に電車の中で腹痛・下痢が起こる人や、授業を受けに教室に入ると尿意を催す人、買い物でレジに並ぶと動悸がする人など多くの人が外来を受診します。
  注目すべきことは、恐怖症の人は通常自分が恐怖症というメンタルな病気だと理解している人は少ないものです。従って、下痢・動悸・頻尿などを主訴として内科や泌尿器科などを受診して、過敏性腸症候群、神経性頻尿、自律神経失調症などと診断され、投薬を受けます。
  患者さんははじめは薬を飲めば症状が消失すると思いますが、実際にはなかなか症状が改善しないために心療内科を受診します。
  恐怖症では、薬を飲めば症状は幾分改善するのですが、ある程度状態が重くなるとそれだけでは十分ではありません。薬を飲んで不安を減らしながら、徐々に今まで避けていた状況にチャレンジして自信を取り戻す必要があります。
  たとえば、電車に乗るのを避けていた場合は、まず誰かと一緒に乗ってみる。次に一人で電車に乗りますが、あらかじめ計画を立てて一駅から始めて距離を増やしてゆきます。このようなリハビリのプロセスをへて、「電車に乗っても大丈夫なんだ」と脳に学び直してもらうことが大切なのです。
  この結果、通常患者さんは動悸や下痢などの症状が「治った」とは感じないものです。状態が改善してくると症状を自然と忘れていることが多くなります。このように「症状を忘れている状態を多くする」ということが不安を改善する(むしろ「不安とうまく付き合う」と言ったほうがよいかもしれません)コツと言えるかもしれません。