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 ここ数年「気分が沈む」という問題でクリニックを受診する20代後半から30代前半の患者さんが増えている印象があります。
 「気分が沈む」というと皆さんはまずうつ病を連想するのではないかと思います。しかし、典型的なうつ病(専門的にはメランコリー親和型うつ病)は、どちらかと言えば40歳以降の人生後半におこりやすい病気なのです。
 最近若い頃(主として20代)に気分が沈むことが主な問題で日常生活に支障をきたす病態として双極性障害が注目されています。  双極性障害とは、長い間経過を観察していると、一生の間にうつ病のエピソードばかりでなく、躁病・軽い躁病のエピソードが発生する病態です。
 躁病エピソードというと皆さんは自分たちには関係がない別の世界のことのように思われると思います。しかし、軽い躁病のエピソードなら私たちのまわりでも比較的遭遇することが多いのです。
 軽い躁病のエピソードでは、まず睡眠時間が短くなります。ナポレオンのように短い睡眠時間でぐっすり眠れ、朝早く起きるとすぐに犬の散歩やジョギングなどをして体を動かします。人によっては電話・手紙・メールなどを朝早くから行います。頭がさえて次々にアイデアが浮かびます。そして頭に浮かんだ考えをすぐ行動に移します。このためはたから見ると大変行動的に見えます。本人は気分が高揚し、喜怒哀楽が激しくなります。自分が偉くなったように感じ、幸福に感じることが多い半面、短期となり些細なことで怒りやすくなります。また他人に対してお節介になったりします。このため会社などの組織にいると、さまざまな波紋を巻き起こしやすくなります。悪いことに本人は「自分が普段と違う」というように感じないので、周囲と意見が異なるときは調整が困難になります。また、欲望を抑えにくくなり、過度に楽観的になるため金遣いが荒くなります。このため借金を作ってしまうこともよくあります。
 (軽)躁状態のときは、本人は通常気分もよく、自信も出てくるので、「とても調子がいい」と思います。たしかに(軽)躁状態が長く続くなら、本人にとってはいいことなのかもしれません。
 しかし、残念ながら(軽)躁状態は長く続かないことが多いのです。そのうえ(軽)躁状態が出現するということは、「今後うつ病エピソードが起こりやすい」ことを意味するのです。
 双極性障害を長い期間追って行くと、うつ状態でいる時期が(軽)躁状態でいる時期よりずっと長いことがわかっています。
 このため、双極性障害、若い人のうつ病では将来の再発を念頭に置いて、その時の症状を改善するばかりでなく、将来の再発を予防するように治療を組み立てることが大切です。