コラムトップ


先日メンタルヘルスの専門医師を対象としたフォーラムに参加しました。その日のプログラムで目玉だったのがプロゴルファーの坂田信弘氏をゲストに迎えての対談でした。
 坂田氏はゴルフ塾を主催し、世界を舞台にして戦えるようなプロゴルファーを要請しています。これまでに塾を卒業した人は33人だそうですが、そのうち27人がプロテストに合格しているそうです。ゴルフのプロテストは狭き門として有名で、全受験者のうち合格するのは100人に一人だそうです。
 対談では、坂田ゴルフ塾に入る人は皆はじめからプロをめざしているかという話題が出ました。驚いたことに、プロを目指している人は1人もいないそうです。全員が親の意向で、稽古事をするような感覚で塾に入るそうです。
 ゴルフ塾の成功の秘訣は、塾に入る条件として、生徒に他の稽古をいっさい辞めてもらうことだそうです。そこで基礎的な練習(塾では6番アイアンだけを振るそうです)を徹底するそうです。同じことを反復して面白さを感じることが出来るようになれば、プロになれると坂田プロは断言されていました。
 そういえば、以前養老孟司先生が著書の中で「自分に合った仕事などはじめからあるわけがない。目の前にあるもので人様の役に立つことを一生懸命やっているうちに道が開けてくる」と強調されていたことを思い出しました。
 最近は「自分探し」という言葉がはやり、「本当の自分とはなんだろう」と考える人が多くなりました。しかし、人生とは偶然の連続であり(それでも後から考えてみると必然と思えるようなことがあるかもしれません。あくまでもその人自身のストーリーの作り方次第かもしれません。)、「本当の自分」ははじめから存在しているわけではないのでしょう。「本当の自分」とは、その人自身が日常の中で作りこんでゆくものだと痛感しました。
 日々を生きてゆくうえでは、「同じことを続けること」、「毎日の生活から教訓(メッセージ)を学ぶこと」が大切で改めて感じました。
 話を対談に戻しましょう。坂田ゴルフ塾の卒業生でプロゴルファーになった人のうち約半数(14名)がシード選手になっているとのことでした。そこでシード選手とそうでない選手とどこが違うのかという質問が出ました。
 プロになるような選手は皆、退屈な動作を繰り返す中で面白さを発見することができ、ゴルフを好きになれるそうです。
その中でシードになれる選手は、「ある意味でバカになれる」ことができるそうです。アマチュアゴルファーならば、プレーをしてもグリーンが近づくにつれてミスを恐れるようになり、不安で力が出にくくなります。しかし、バカになれる人とは、グリーンに近づくほど集中力が増し、いいイメージに酔うことが出来るそうです。
私はこの話を聞いて感動して家に帰りました。帰る途中で「バカとはなにか」と一生懸命考えました。そして、坂田氏のいうバカとは「サムシンググレートに身を任せることが出来る人」のことを言うのではないかと思いました。
人生は偶然の連続です。世の中には運のいい人悪い人がいますし、もって生まれた能力も決して平等ではありません。そのなかで自分の能力を発揮するということは、目の前にある人のためになることを一生懸命やりながら、自分の将来はサムシンググレート(宇宙を動かすような、我々の目に見えない大きな力)と共にあるという姿勢をもつことかと思いました。
要するに、「最後は何とかなるさ」と腹をすえられることが「バカ」の条件であり、「バカ」はすぐれたパフォーマンスを出せる(言い換えるとその人の持つ能力を発揮できる)ということでしょうか。