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私は昔から歴史が好きでした。医者にならなかったら大学で歴史を学びたいと思ったほどでした。最近も歴史関連の書物を読むことが多いです。
 ここ数年、しばらく離れていたけれども復活した習慣があります。それは日曜の夜に大河ドラマを見ることです。私は子供の頃から武田信玄が好きだったので、2007年度に「風林火山」が上映された時から、再び見るようになりました。
 大河ドラマで取り上げられる主人公は毎年代わります。どのような過程で新しい主人公が選ばれるのかは知りませんが、ここ2年は天障院篤姫と直江兼続という新鮮な顔ぶれとなりました。
 この2人の共通点を考えてみると、面白いことに気がつきました。
 天障院篤姫は、今風に言えば嫁ぎ先の家業(徳川幕府)が倒産して、家業を整理しながらもプライドを失わずに第2の人生を堂々と送りました。
 直江兼続は、自分がナンバー2を勤める会社(上杉家)が天下分け目の戦いに敗れて、本社(新潟)を失い、会社の規模を1/4にして地方(米沢)へ移転となりました。敗戦の時点で辞職して、そのまま会社を離れるリーダーが多い中で、会社の再建で手腕を発揮し、新しい会社の基礎を作りました。
 このように2人の主人公には、所属する組織が縮小を余儀なくされた時代にあって希望を失うことなく、自尊心を保ちながら生きたという共通点があると思います。
 現在は世界中が不景気にあえぐ時代で、製品の輸出に依存する日本の低迷は深刻なものがあります。経済の規模から一家の家計までダウンサイジングが強いられる状況かと思います。
 心理学でよく使われる用語に「喪の仕事(モーニングワーク)」という言葉があります。自分にとって大切な人や物(対象)を失ったときに、対象のよいところ・悪いところをバランスよく思い出して整理し、記憶の中にとどめることを意味します。モーニングワークがうまく行われると、明日へ向かって新たに歩みだす原動力となります。逆にモーニングワークがうまく出来ないと気分が沈んだままだったり、絶えず漠然とした不安に襲われたり、自尊心を持てずに生活をすることがあるそうです。
 精神分析では古くは「うつ病はモーニングワークがうまくいかない状態で発症・持続する」という考え方もありました。
 未曾有の危機に見舞われ、組織のダウンサイジングという課題に直面しながら、モーニングワークをうまく行えた篤姫や直江兼続の生き方は、絶えずダウンサイジングの必要にさらされる現代の日本人が学ぶべき生き方ではないでしょうか。