コラムトップ


最近疑似科学入門(池内了著 岩波新書)という本を読みました。
 現在は科学の時代といわれながら、多くの非合理がまかり通っています。むしろ情報化社会に入ってから、科学の装いをした非合理が目立つ印象すらあります。
 著者によれば疑似科学とは以下の3種に分類できるそうです。
 まず1番目は、占い、超能力、疑似宗教など物質世界を超えて精神世界の行く末を予知するものです。これらは、人々が主体的に生き方を選択するうえで参考にするならよいかもしれません。逆に占いを信じて自分で考えることを辞めるということでは、現実の世界のビジネスに組み込まれてしまう危険があります。
 2番目は、マイナスイオンなど効果の証明されていないにもかかわらず宣伝される商品、ダイエットや健康によいといううたい文句だが、使い方によっては逆に病気を引き起こしかねない健康食品、ベータカロチンやセロトニンなどの専門用語を使い効能があるかのように見せかける食品などです。
 これらは科学を援用・乱用・誤用・悪用したもので科学的な装いをしていながら実態のないものです。
 日常の診察でも患者さんからサプリメントの話を聞くことがあります。多くのものは有効性の根拠が不十分のようです。たとえば動物実験で効果が証明されても、実際に人間に効果がないことも多いのです。人間に投与して有効だという手続きが必要です。逆にきちんとした手続きを通せば、医療機関で処方され、健康保険が適用される薬となるはずです。
 健康食品による健康被害は過去に数多く報告されており、東京都医師会でも注意を呼びかけています。
 第3番目は現在の科学では正しいかどうか結論を出せない問題です。地球温暖化、電磁波問題など多くの問題が含まれます。これらの問題は、多くの要素がからみあっており、「二酸化炭素がふえると地球が温暖化する」かどうかまだ結論が出ていません。当然、結論が出ていないからといって、「二酸化炭素が増加しても地球は温暖化しない」ということも誤りです。わかっていないことをあたかもわかりきったこととして話を進めるような情報には注意して接する必要があるでしょう。
 では我々はなぜ疑似科学に影響を受けやすいのでしょうか。理由はたくさんある都思いますが、ここでは2点に触れたいと思います。
 第一に、社会心理学の言葉で「同調」というものがあります。昔のコントで「赤信号、皆でわたれば怖くない」というのがありました。人間には「人から好かれたい」「正しくありたい」という欲望があります。この結果、集団に入ると周囲の人の影響を受けて自分の考えを変えやすいということがあります。マスコミが悪役を作り、皆がいっせいにバッシングするなどは典型的な同調行為と思われます。
 第二に世の中が便利になり、人々が日常生活で「お客様」となり、何かをする時に人に「お任せ」にすることが多くなったことがあげられます。
 この結果、自分で考えることなくマスコミの報道をそのまま信じ込みやすくなります。また「お任せ」が一人歩きすると人々は自分の責任を棚に上げて他に転嫁することが当たり前になります。最近話題のモンスターペアレントなどは典型的な現象でしょう。
 我々はマスコミなどから情報を得たら、まず自分でその内容を疑いながら吟味することが大切でしょう。